更新:2024年10月14日 |
2024年10月14日
日本文化人類学会第31期会長(代表理事) 棚橋 訓
会長就任にあたって2024年6月から2026年6月までの2年間、本学会の第31期会長(代表理事)を務めることとなりました。 私は1982年、修士課程1年のときに当時の日本民族学会に入会し、その後、齢を重ねながら理事・評議員・代議員を幾期か務めてまいりました。その過程で学会名称変更の検討や学会法人化など、図らずも学会の「背骨」の改革作業に直接に携わる機会を幾度か得てきました。しかしながら、そうした過去の経験と知見が、会長任期の2年間においてどれほどの意味を持ち得るのかについては、私自身、いま訝しく思っています。 学術をめぐる動向の先行きの不透明さとともに、学術を支えるインフラストラクチャーそのものが以前の想定をはるかに凌ぐかたちで日々変化し続けるなかで、単に過去に蓄積された経験と知見の延長線上に眼前の問題の解決を求めていては、早晩、学会運営は立ち行かなくなってしまうのではないかという思いを改めて強くしている次第です。 本学会ホームページなどで第31期理事会のメンバーをご確認くだされば一目瞭然ですが、第31期理事会は、すでに多方面で豊富な実績を有して活躍する若い世代の理事を中心に編成されており、これまでに無いような世代交代を顕著な特徴としています。「老人の戯言」であるとの誹りを免れ得ないことを承知のうえで、新陳代謝は学会の維持にとって極めて重要かつ不可欠なものと捉え、会長として若い世代の理事の面々の発想と実行力に大いに期待するところです。もちろん、文化人類学という学問領域を国策と学術界再編の荒波のなかに埋没させることなく、文化人類学という学問領域の特性と存在意義を積極的かつ声高に叫び続けていくことを通奏低音とし、眼前の各種事業の運営において迅速かつ的確な判断を行っていくことが会長に第一に求められていることは心得ております。しかしながら、同時に、若い世代の発想と実行力を取りまとめて、これから先の数十年を見据えて日本文化人類学会が進んでいくべき方向性を定めることも、会長に課せられた重要な役割の一つなのだと考えています。 第31期理事会の具体的な事業計画に目を転じると、今期中に着実に実現・完了しなければならない事業から、着実に継承し発展させなければならない事業、そして、本学会のこれから先の数十年を見据えて礎を築かなければならない事業に至るまで、そこには多くの課題と問題が山積しています。 今期中に着実に実現・完了しなければならない事業としては、2024年度内での学会事務局の移転と学会ホームページのリニューアルが筆頭に挙げられるでしょう。これまで神奈川大学のご厚意により都内の現在地に学会事務局を構えてまいりましたが、2025年3月に事務局の賃貸契約期間の満了を迎えます。また、学会員のかたがたに向けた情報提供・情報共有の利便性を高めるべく、今期は長年の懸案であった学会ホームページのリニューアルに実際に歩を進めなければなりません。学会員のかたがたの利便性の向上に類する事業には、webを活用した代議員選挙体制の実現に向けた検討作業も含まれます。 着実に継承し発展させなければならない事業については、学会員のかたがたの最新の研究成果を公開する場としての研究大会等の充実ならびに学会機関誌『文化人類学』と同英文誌Japanese Review of Cultural Anthropologyの充実が柱となることは言を俟たないでしょう。特に研究大会等の運営に係わっては学会員に対する情報保障が喫緊の課題であり、第30期では男女共同参画・ダイバーシティ推進委員会において本学会の情報保障の枠組みに係る詳細な検討が成され、北海道大学における第58回研究大会ではそれに呼応した研究大会の運営が実行に移されました。こうした実績を踏まえながら、第31期では同委員会を中心に情報保障の枠組みと実施体制の一層の整備に継続して取り組んでまいりますが、第30期と同様に学会員のみなさまの合意と支援を得ることを必須とし、ユニバーサルデザイン・ガイドラインの設定とアクセシビリティを支える財政基盤の確保についての検討が重要課題となります。学会機関誌については、英文誌の電子ジャーナル化についての検討なども想定されるでしょう。 本学会のこれから先の数十年を見据えて礎を築かなければならない事業は、第30期の臨時社員総会における議決を経て2024年4月1日付で発出された「アイヌ民族研究に関する日本文化人類学会・学会声明」を起点とするその後の対応の検討が柱となります。第30期では倫理委員会のもとにアイヌ研究特別小委員会が設置されていましたが、第31期では倫理委員会から独立してアイヌ民族研究特別委員会を設置し、北海道アイヌ協会、日本人類学会、日本考古学協会、日本文化人類学会で編成される関連4学協会への対応、学会声明を起点に今後具体的に求められる学会事業などについて検討することを課題とします。「アイヌ民族研究」をめぐる現在は、文化人類学を志す者に対して等しく「文化人類学とは、いったいいかなる営為なのか」という厳しい問いを突き付けてきます。本学会員各位には日本はもちろんのこと世界の各所で、あるいは電磁的世界でもフィールドワークを展開して優れた研究成果を挙げているところですが、学会員のお一人お一人には、本学会があくまでも日本を足場に事業を展開してきている学会であることを今一度思い返し、その観点から「日本において文化人類学すること」の意味を改めて問い直していただければと思っています。また、この問いに真摯に向き合うことは、日本を足場とする文化人類学の成熟とともにその国際化を一歩先に進めることに資するはずだとも考えています。 第31期では上記以外にも各種事業に取り組んでまいりますが、その詳細については学会機関誌『文化人類学』に掲載される各年度の事業計画にお目通しくだされば幸いです。 いずれにいたしましても、理事、代議員、監事、そして何より学会員のみなさまのご助言とご協力を得ながら各種学会事業に取り組むことが大前提であり、この機会を借りて、日本文化人類学会を支えてくださるみなさまには、第31期の2年間、ご助言とご協力を賜りたく改めてお願い申し上げる次第です。 非力ながら学会員のみなさまの研究活動を支える一助となれるよう、私も会長の職務を精一杯務めたく存じます。 |