会長挨拶

更新:2022年8月10日




2022年8月10日

日本文化人類学会会長(第30期) 真島 一郎
会長あいさつ

 第30期の会長、法人代表理事を務めることになりました、真島一郎です。第29期では、二度めの総務理事として窪田会長と総務会でご一緒し、研究大会や理事会の開催方式をはじめ、コロナ禍で激変する学会運営を手探りで補佐してまいりました。この間に中断を余儀なくされてきたみなさまのフィールドワークも、再開の目途がようやく立ちはじめてきたように思います。ただ、世界の先行きはいまだ不透明です。ウィズ・コロナの情勢が今後しばらく継続するとしても、会員のみなさまの闊達な研究交流、学会という触発的な饗宴の場をこれまで同様に堅持し、下支えしていけるよう努力してまいります。どうぞご支援をたまわりますようお願いいたします。

 第29期からの申し送り事項のうち、今期2年で取り組むべき課題は、現時点でも複数ございます。2019年の法人化以降、学会では理事・代議員の構成に世代交代が促されるなど、めざましい変化が生じた一方で、法人の定款を現実の学会運営に適用していく場面では、検討を要する問題の所在にそのつど突きあたってまいりました。加えてコロナ禍の2020年以降は、メール審議の許容範囲もふくめたオンライン態勢下での合意形成の手続や、代議員選挙のオンライン化に関する議論が浮上しました。これまで特定の大学のご厚意で賃借りしてきた学会事務局室のあり方も、再考すべき時をむかえております。そのため今期は、「選挙制度および事務局室問題検討特別委員会」を新たに設置し、法人としての規程整備の観点に照らしながら、明確な結論を見いだしていかなくてはなりません。

 学会の財政は、2016年の会費改定後もなお、逼迫状況が続いています。会員各位の年収に応じた会費減額枠や、震災等の被災者、コロナ禍で家計が急変した方々を対象とする会費徴収特例措置など、社会的なものに留意する姿勢は、組織としてやはり重要です。しかしそれだけに、会費の再改定に向けた中期的な議論に今後着手するのでないかぎり、現在の学会事業全体をいまいちど見直し、様々な方途をつうじて支出削減の可能性をまず検討するのが筋であろうと考えます。約1,800名前後の規模を擁するこの自発的結合associationにあって、そもそも学会とはなにか、また会員、とくに若手会員にとって今以上に有益で魅力的な学会となるためにはどのような事業が真に求められるかを、あらためて問いなおす契機としたいものです。

 学会の最も大きな存在理由のひとつである研究大会は、関係のみなさまのたいへんなご努力に支えられ、2020年度、21年度はオンライン、22年度はハイフレックス形式で、足かけ3年のコロナ禍を克服してまいりました。他方、メディア環境の予期せざる変質により、コロナ禍以前の社会でも繊細であるべきだったコミュニケーション様式に一定の反省と課題が生じたことも事実です。視聴覚に障がいのある会員への補助の体制、会員のだれもが十分に情報を受けとるうえで必要な情報保障の取組が、研究大会にかぎらず学会では当面未整備です。この課題と向きあうには、会員のみなさまの合意をふまえたUDガイドラインの設定や、財政難の状況下でもアクセシビリティの確保をはかる一定の予算措置に向けた検討が必要になるでしょう。

 学会のメッセージを国内外の社会へいかに届けていくかという点では、広報リニューアルの前提となる学会HPの操作性向上や、IUAES(国際人類学民族科学連合)、WCAA(人類学会世界協議会)など、国際学会との連携関係を継続する次世代のパイプ作りに、取り組む必要があります。また、発信すべきメッセージの内容そのものの次元で、今期学会に課されているのは、アイヌ民族研究倫理についての明確な意思表明です。学会見解の内容更新をめぐって遅くとも1980年代から課されてきたこの問題は、2010年代後半以降、関連4学協会(北海道アイヌ協会、日本人類学会、日本考古学協会、日本文化人類学会)のあいだで「アイヌ民族に関する研究倫理指針(案)」を策定する議論にまで進展しました。この問題に学会として向きあうために設置された倫理委員会内属の「アイヌ研究特別小委員会」には、私も前期総務会側のオブザーバーとして2年間参加させていただき、指針文案の合意に到る今後の容易ならざる道のりにふれてまいりました。学会としてのメッセージを社会に届けるには、なにより会員間の広範かつ十分な議論の積み上げが欠かせないことはいうまでもございません。会員のみなさまにおかれましては、研究倫理に関するこの歴史的問題が、1)単なる過去の清算ではなく現在進行中の深刻な問いであり、また人類学的思考の未来を拓く重大な問いであること、2)アイヌ民族にかぎらず世界のどのフィールドでも再び生起しかねない問いであること、3)アイヌ人骨・副葬品の調査に専門的に関与してきた特定の知にかぎらず、文化人類学の知的営為の根幹にふれる問いであることに今一度思いを寄せていただき、倫理委員会が今後継続して開催する予定のオンライン・シンポジウムやHP上での意見交換にぜひ参加してくださいますよう、お願い申しあげるしだいです。

 これからの2年間、理事、代議員、監事のみなさま、会員のみなさまに支えていただきながら、会長・法人代表理事としてのつとめを誠実に全うしていかなければならないとの思いを強くしております。どうぞよろしくお願いいたします。

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