学会法人化という課題

更新:2016年07月09日

2016年3月31日

第26期理事会法人化検討委員会委員長 山本真鳥

 学会の法人化は、重要な課題として10年以上前から理事会で検討されてきたが、法人への移行はこれまでずっと見送られ続けてきた。本学会の場合、とりあえずは法人化する上でハードルの低い一般社団法人に移行し、その後公益社団法人への移行の可能性を探るという道筋が考えられるが、一般社団法人に移行した場合どのようなメリットがあるのか、あまり明確でなかったため、これまで法人化に踏み出すことができなかった。法人制度改革が行われた2008年を境として、もともと社団法人だった学会は新制度下での一般社団法人に衣替えしたが、規模の上で本学会の10倍以上もある理系の巨大学会は、新制度の下では公益社団法人化して様々な事業拡大を行っている。一方、現在文系の学会の中で公益社団法人となっている例には、会員数が本学会の1.5倍程度の日本地理学会(文理融合型)がある。しかしながら、新法人法施行後間もなく10年が経過し、本学会と同程度あるいはより小規模な文系学会も任意団体から一般社団法人に移行する学会が徐々に増加しており、日本民俗学会、日本統計学会、人文地理学会などがすでに法人格を取得している。ただし、日本社会学会や日本言語学会などは未だ法人格を取得しておらず、本学会と同様、法律上は任意団体として扱われている。

 法人と任意団体とではどのような違いがあるのであろうか。「法人」とは、法律上「人」とみなされる存在であり、「人」と同様「法人」は、主体として財産をもち、契約を結び、それに基づく権利義務関係を明確化することのできる存在である。一般に、企業や国家などがこれに相当する。一方、法人格をもたない任意団体は、財産をもつことや、契約を結ぶことに関する権利義務関係が曖昧な存在である。そのため、本学会の運営費を管理する銀行口座の名義には必ず会長名を入れることが求められ、会長が交替する度に口座名を更新しなければならない。銀行口座は会費管理だけでなく、科研費毎にも作らなくてはならず、そのために用意する書類も多く、結構な手間となっている。現時点では、会長の個人名義の口座に入金される会費などは課税対象となっていないが、極論としては会長個人の収入として課税される可能性がないとはいえない。また、現在科研費は任意団体でも受給可能であるが、将来的には、法人格をもたない団体は受給できなくなる可能性もある。

 上記の点を考えると、会員約1800名余を擁する本学会ほどの規模の団体は、法人格を得て、法律上の主体となりうる形をとることが必要であると考える。かつて文系においては、法人化していない学会が多勢を占めていたが、法人化する学会が漸次増えてきている現状を考えると、本学会も法人化を視野に収めた具体的な検討に歩を進めるべきであるというのが第26期理事会に設置された法人化検討委員会の結論である。実際、法人への移行に関する意思統一を行い、移行手続きに入ってから移行を完了するまでに少なくとも3〜4年程度の時間がかかるため、課税対象の見直しや科研費の制度の見直しが行われた場合、現行の任意団体のままでは、即座に対応することができないのである。

 一般社団法人格を取得するためには、定款を準備して法人格取得手続きを行うために12万円程度、以後理事に変更がある度(現状では2年に一度)に登記費用が4万円、東京都に法人都民税を毎年7万円払う必要があるが、法人化した場合のメリットを考慮してその費用対効果を想定しても、決して過剰な支出が発生するものではないと判断した。

 上記の法人化検討委員会の提案を第26期理事会は承認し、さらに、2015年度総会は理事会が法人化に向けて具体的な検討に入ることを承認した。これを受けて、第26期理事会は、定款の検討を行い、第27期理事会に引き継ぐこととした。

 一般社団法人に移行するためには、法人の「憲法」に相当する「定款」を作成しなくてはならないが、定款は「一般社団法人及び一般財団法人に関する法律」に則る必要がある。これに伴い、日本文化人類学会会則をある程度変更せざるを得ないが、法人化検討委員会で精査した結果、最も大きな変更が必要となるのは、社団法人のメンバーシップに相当する「社員」をどう規定するかという点であることが判明した。

 「一般社団法人及び一般財団法人に関する法律」では、一般社団法人の最終的な議決権は社員総会にあり、社員総会は議決権を有する社員の過半数が出席し、出席した社員の議決権の過半数をもって(ただし、解散、除名、監事の解任、定款の変更等重要案件の場合には、総会員数の2/3以上をもって)決すると定められている。この点が法人化する上で大きな問題となってくる。近年の研究大会の参加者はほぼ600名程度であり、総会の参加者はさらに少なく、100名前後である。このような状況では、社員=会員とした場合、社員総会を成立させるためには、総会に出席できない会員800人あまりから委任状もしくは議決権行使書面を提出してもらう必要があるが、そのための事務作業は膨大な量となる。また、上記の重要案件の議決(特別議決)に関しては、社員から委任状や電磁的方法も含めてであるが賛成を全体の3分の2集めないと、定款の変更ができず、公益社団法人への移行も不可能となる。

 上記の問題を回避するためには、従来の評議員を代議員と読み替えて、地区毎に会員数に見合った代議員を選出し、代議員をもって新法人法にいう「社員」とするという方法が考えられる。この方法を採用すると、社員総会は現在の評議員会に相当するようなものとなる。現在の評議員会は評議員以外の会員の出席を想定せずに運営されているが、社員総会に議決権を有しない会員の陪席を認め、議長の許可の下、意見を述べることができるようにしておけば、法人化後の社員総会は実質的に現在の総会と同じような機能を果たすことができるであろう。

 この他にも、会長を法律上の代表理事と読み替えることになるため、その選出方法が現在とは若干異なってくるし、代議員(=評議員)選挙等に若干の変更が必要となるが、上記のような形で法人化しても、現行の諸制度やその精神からは大きく逸脱することはないものと考えられる。

 第26期理事会作成の定款(案)は、第27期理事会に引き継がれ、第27期理事会での審議を経て、第50回研究大会での総会において会員に提示される予定である。総会での定款(案)の提示後、第27期理事会は、会員から寄せられた法人化に関する疑問や意見を吸い上げ、必要に応じて定款(案)の修正を行い、第51回研究大会総会で会員に定款の最終案を提示し、一般社団法人への移行の賛否を問う見通しである。総会で法人化が承認された場合、第28期理事会は法人化への移行手続を行うことになる。

 以上、法人化という課題に対する第26期理事会法人化検討委員会の検討結果をまとめてみた。会員の皆様からの忌憚なきご意見を第27期理事会までお寄せいただければと思う。

 (追記)

 第26期理事会法人化検討委員会委員長より2016年05月17日に掲載した文章の記載に誤りがあった旨の連絡を得ましたので、以下のとおり訂正して再掲載いたします。

 なお、上記文章は修正後のものです。また『文化人類学』81巻1号に掲載される同名文書も、修正後のものとなっております。

第4段落 【誤】3万円→【正】12万円程度
第7段落 【誤】会員500人あまり→【正】会員800人あまり
【誤】3分の2→【正】全体の3分の2
第8段落 【誤】社員総会は実質的に現在の総会と→【正】法人化後の社員総会は実質的に現在の総会と

(以上)