査読過程に関するガイドライン(公開用)

『文化人類学』第27期編集委員会(2017年6月28日編集委員会承認)、第29期編集委員会(2021年7月4日編集委員会修正承認)



1. 投稿者の方へ
・査読過程の流れ
・査読者をめぐる希望
・原稿の作成について
2. 査読者の方へ
・査読過程における査読者の役割
・査読期間および査読の迅速化
・編集委員会に向けての「査読意見」
・査読の匿名性、および査読者名の事後掲載について
・投稿者に向けての「査読コメント」
・「投稿者に対してフェアな査読」を行うために【重要】


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1. 投稿者の方へ

 査読過程は、投稿者・査読者・編集委員会の三者を交えた協働作業によって成り立っています。この過程を円滑に進めるため、以下の点をご了承および留意のうえ、原稿をご作成ください。

【査読過程の流れ】

・ 投稿原稿について、まず編集委員会内で査読開始の可否の判断をします(これは「プレ査読」と呼ばれます)。

・ 査読開始可の場合、投稿者による査読に関する希望も考慮しつつ、公正かつ適切な査読が可能な学会員2名以上に査読を依頼し、受諾ののち査読の作業を依頼します。

・ 編集委員会は、査読者による「査読意見」及び「査読コメント」をベースに、査読規定を念頭に置きつつ総合的に検討して「査読結果」を作成し、投稿者に通知します。

・ 投稿者は、再投稿を求められた場合、編集委員会からの「査読結果」と査読者からの「査読コメント」を参考に、2ヶ月程度で原稿を修正ないし改稿し、再投稿します(なお、特集の一部をなす原稿の場合、再投稿期限はかなり短くなります)。この際、「投稿者からのリプライ」(任意形式)を添付することが可能です

・ 査読は初回査読・再査読・再々査読の三回を限度とし、再々査読の「査読結果」が最終判定となります。

【査読者をめぐる希望】

・ 論文・研究ノート・研究展望の投稿者は、専門性・公正性の見地からみて望ましいと思われる査読者(「希望する査読者」)、また、望ましくない査読者(「希望しない査読者」)の名前を挙げることができます。

・ 「希望する査読者」の記載に際しては、「『文化人類学』利益相反に関する指針」を参考にし、公正な査読を行いにくい候補者の名前は決して含めないでください

・ 編集委員会は、「希望する査読者」についての情報を可能な限り活用し、また「希望しない査読者」に関しては投稿者の意見を尊重します。ただし査読者選定には様々な考慮が必要であるため、査読者が「希望する査読者」の範囲内から選定されるとは限らないことをご理解ください。なお、「希望しない査読者」については、投稿者が安心して記入できるよう、編集主任(特集の場合は副主任、特集補佐)が特に厳重に情報管理します。

【原稿の作成について】

・ 査読過程は、査読者である学会員の無償の協力によって成立するものです。投稿者は、査読者に無用な負担がかからないよう、最善の努力を払ってください。特に、誤字脱字のチェック、文献引用の形式のチェック、図表を使う場合の説明の仕方等、自助努力で可能なことは原稿提出前にすべて行ってください

・ 制限枚数は厳密に守ってください。また枚数計算は、必ず寄稿規定にある方法に従って行ってください(文書作成ソフトウェアの文字カウント機能に頼って計算すると大幅な枚数超過になるので注意してください)。

・ 投稿者への「査読コメント」は、専門的知見を持った読者からの反応として、謙虚かつ真摯にお受け止めください。たとえコメントが明らかな誤解を含んでいると考えられる場合でも、自分の原稿に誤解を招きやすい点、説明不十分な点がなかったか考えてみてください。再投稿の際、修正・改稿の意図を査読者によりよく伝えたいと思われる点については、「投稿者からのリプライ」の中でご説明ください。

・ 再投稿にあたっては、「査読コメント」を反映した加筆の必要があるため、投稿区分の制限枚数の10%まで枚数超過が容認されます。なお、再々投稿時における許容枚数の新たな増加はありません。


2. 査読者の方へ

【査読過程における査読者の役割】

・ 新査読規程(2017年4月15日理事会承認)では、査読をめぐる近年の世界的動向および研究倫理上の問題を考慮しつつ、各査読者による査読行為は「編集委員会・査読者・投稿者による協働作業」の一部として位置づけられました。そのため、原稿修正の達成度や原稿の掲載の可否についての判断の最終的責任は、査読者ではなく、編集委員会が負うことになっています。

・ 査読者はこれにより、原稿が持つ価値や可能性の有無についての判断、誤りや問題点の発見、原稿改善のための適切な助言の案出、といった学問的作業に集中することができます。もちろん、査読者による査読意見が、実質において査読過程の主要部分をなすという点では、新旧の査読規程のあいだに違いはありません。

・ 編集委員会に向けての「査読意見」では、原稿の掲載意義や将来性についての率直なご判断をお書きください。投稿者に向けての「査読コメント」では、対話的姿勢のもと、投稿者が最小限の努力で原稿を改善できるよう、問題点の指摘や、修正・改稿のための建設的助言等をお書きください。査読票に記入前には、本ガイドラインの最後の項目である【「投稿者に対してフェアな査読」を行うために】をぜひ再度お読みいただくようお願いいたします。

【査読期間および査読の迅速化】

・ 査読期間は最長でおよそ1ヶ月です(特集の査読期間はかなり短くなります)。

・ 一読して大きな問題点が見当たらないと思われる原稿は数日間で戻すことも可能です。これは、再投稿原稿または再々投稿原稿で、確認すべき点が限られている場合には特に重要です。掲載可能となった原稿を迅速に『文化人類学』に掲載し、その研究成果を共有していくことは、すべての学会員にとって利益となります。

【編集委員会に向けての「査読意見」】

・ 新査読規程では、内容・形式ともに多様な投稿を積極的に掲載してゆくことを意図しています。これまでの査読経験を参考にするのではなく、新査読規程第6条(本文書末尾をご覧ください)に基づく新たな形での査読を行なうようお願いします。

・ 「(1) 原稿において積極的に評価できる点」では、原稿が持つ掲載意義について箇条書きでお書きください。査読者として「積極的に」という言葉に躊躇いを感じる場合も、その旨を含めてご記入ください。

・ 「(2) 原稿に見出される問題点」では、 (1)の意義が必要十分な形で表現されているかについてご検討ください。以下の事項はそうした検討事項の一部ですが、詳細は投稿者に向けての「査読コメント」の方にご記入いただき、ここでは掲載可否に関わるような主要な問題点のみをご記入ください。

- 原稿枚数

- 表題

- 文章の正確さ・明瞭さ

- 構成

- 素材・資料の扱い

- 先行研究との関係(ただし先行研究レビューの部を必ず設けなければならないわけではない)

- 日本語要旨の内容

・ 新査読規程第6条にある通り、完全無欠な原稿は求められていません。改善可能性に関しては、原稿の長所を減じることなく、短期間に最低限の短所の改善を行うことが可能か否か、また具体的にどのような作業が必要と考えられるかをご記入ください。『文化人類学』では、再投稿および再々投稿という形で二度の修正・改稿の機会があります。特に初回査読ではこの全体的展望のもとでご判断ください。

・ 「(3) 判断区分」は、原稿についての総合的判断をお書きください。なお、A〜Eの項目は評価ではなくて目安であり、編集委員会が総合的視点から「査読結果」を作成するうえでの参考データであるとご理解ください。

・ 「(4) その他(任意記入)」では、(1)〜(3)に収まらない種類のご意見をご記入ください。既発表原稿との重複、投稿区分に関する疑問等もこちらにご記入ください。

【査読の匿名性、および査読者名の事後掲載について】

・ 本誌における査読は、原則として当該号の編集終了前まで匿名です。編集委員会の許可なくこの原則を外すことは許されません。

・ 新査読規程では、原則として、奇数巻の第1号で前二巻(合計8号分)の掲載原稿の査読作業にご協力下さった方々の氏名を集合的に公開させていただく方針を定めています(査読者が特定のどの投稿の査読を担当したかは記載しません)。ただし査読者ご本人がお名前の掲載を遠慮される場合はご意志を尊重いたします。

【投稿者に向けての「査読コメント」】

・ 投稿者が再考する際に参考となるよう、できれば全体コメント細部に関するコメントに分けてお書き下さい。

・ 投稿者と査読者は、同じ学問の研究者としては水平的な関係にあります。指導的姿勢ではなく対話的姿勢でコメントをお書きください。特に初回査読においては、問題点の指摘のみならず、肯定的な面が見出されればそれについても述べることで、投稿者も「査読コメント」を受け止めやすくなります。

・ 修正・改稿においては、投稿者が査読者の指摘を通じ、問題点を自覚して自ら修正することが基本です。明らかな誤り以外は、要求事項のような形では述べず、修正の必要性を学問的根拠をもって示したり、修正の可能性を具体的に例示したりすることにより、自発的な修正を促してください。

・ なお、原稿の修正や改稿は、投稿者が限られた時間(一般には2ヶ月程度、特集の場合はより短期間)の中で行う作業です。大小の問題点の指摘、文献参照の必要の指摘等については、必要十分な形でお願いいたします。

【「投稿者に対してフェアな査読」を行うために】

・ 『文化人類学』の査読制度に影のようにつきまとってきた厄介な問題として、「厳しい査読」の問題があります。

「厳しい査読」は『文化人類学』にとって望ましくありません。「厳しい査読」が一般化すればするほど、『文化人類学』は投稿先として敬遠され、リスクのある原稿が寄稿されなくなり、その価値も魅力も水準も低下していきます。とりわけ『文化人類学』のような雑誌では、査読者は、学会誌の水準を下げることを恐れて「厳しい査読」に向かいがちですが、査読者は「投稿者に対してフェアな査読」の姿勢を自覚的に保持しなければなりません。

・ 査読者の役割は、原稿に何らかの価値があると信じうる限りにおいて、投稿者をサポートし、掲載に向けて必要と思われる助言を与えることです。いくつかの理系の学会では「石を拾うことはあっても玉を捨てることなかれ」という査読方針を積極的に掲げていますが(情報処理学会等)、査読者および編集委員会が「石を拾う」リスクを冒してこそ、学会誌における議論は活性化します

・ 査読者が「投稿者に対してフェアな査読」の姿勢を守るためには、次のような点に十分に留意することが必要です。

1. 査読が投稿者と対面して議論することなく判断を下す、一方的な行為であること。これが「甘すぎる査読」への不安と結びつくことで、投稿者に対してアンフェアな査読が生まれる傾向があります。

2. 査読作業が外在的基準による判断に傾きがちであること。原稿の価値は、最終的には、原稿自体の内在的論理(原稿の意義に即した問題設定・構成・主張等)から出てくるものです。しかし、原稿を外在的基準(先行研究との関係・素材や資料の扱い・構成等における外見上の完成度)に照らして検討する中で、そうした内在的論理は見えにくくなり、欠点ばかりが目立つように見えることがあります。修正提案においても、過度の要求によって「角を矯めて牛を殺す」ことがないようご留意ください。

3. 投稿者と査読者の思考スタイルや知的資質における差異。とりわけ原稿が査読者自身の研究領域に近い場合、こうした差異が原稿の達成度の不足にみえる場合が少なくありません。原稿の内在的論理に近づく努力をするとともに、投稿者には対等な立場で反論する機会がないことを改めて想起する必要があります。

4. 優れた研究者には、自分自身に対する厳しさゆえに、他者に対しても厳しい判断をする傾向も時にみられます。上の3.の点を考慮に入れ、他者に関する判断においては、一定程度その基準を緩めることが適切であるという可能性もお考えください。

5. 査読者が原稿の学問的主張についての異議を抱く場合には、新査読規程第6条IIIにある通り、投稿者に対してフェアな査読を貫いたうえで、掲載後に批判する形を取ってください。