会長挨拶

更新:2020年8月5日




2020年8月4日

日本文化人類学会会長(第29期) 窪田 幸子
会長あいさつ

 第29期の代表理事、会長を務めることになりました、窪田幸子です。一言ご挨拶申し上げます。これまで長く文化人類学会にお世話になり、かかわらせてきて頂いた、その総仕上げと位置づけて、この2年間を務めさせていただきたいと思っています。どうぞご支援をよろしくお願いいたします。

 日本文化人類学会は、ここしばらくだけを見ても、歴代の会長のもと、いくつもの大きな改革を成し遂げてきました。例えば、学会財政の健全化のための会費の値上げ、学会誌の装丁の改変および英文率の向上、国際化の推進、研究大会運営の変革、理事役職の合理化などです。どの期の理事会も大変に熱心かつ積極的に運営され、その結果、本学会の活動もさまざまに改善されてきました。そのおかげで、この29期は大変動きやすいものとなっていると思います。

 もっとも新しい変革は、学会の法人化です。第27期の松田素二会長のもとで着手され、それまでの「任意団体」から、第28期の清水展会長のもと「一般社団法人」としてスタートを切りました。この法人化によって学会の意志決定やそれに対する会員の関与のあり方が大きく変化したのですが、一般会員の皆さまには、その変化があまり実感されていなかったかもしれません。しかし今回は、目に見える形の変化がうまれました。この度はじめて、法人組織としての評議員と理事の選挙を実施したわけですが、評議員会、理事会ともに構成員の若返りが果たされたのです。

 私が最初にこの学会の理事になったのは、30歳代の終わりでした。それから今期まで理事を8期、経験してきました。その間、私は相対的な若手であり続け、なかなか若い方が理事会に入ってこないことが問題と認識されてもいました。しかし、今回の改革で評議員、理事の選任過程に変更を加えた結果として、多数の中堅と若手の会員が評議員と理事に就任されました。これは、特に若手の会員が、学会の中軸部との強いパイプを得たこと、つまり「自分たちの組織」として学会にこれまで以上に積極的にかかわることが可能になったことを意味します。これが学会のさらなる活性化につながることを期待しています。

 近年、大きく進展してきたもう一つの変革は、国際化です。この動きは、かなりの具体的成果を生んできています。私は、しばらく以前から国際化対応の担当理事として、国際組織で日本文化人類学会代表として活動をしてきました。WCAA(世界文化人類学会連合)、そしてIUAES(国際人類学民族学ユニオン)の組織委員会のメンバーとなって活動してきておりますし、前期には国際発信強化委員長として東アジアの文化人類学会との連携強化を推進するなど、国際化に力を尽くしてきました。この間に、国学会に参加して学会発表をする日本文化人類学会の会員は確実に増加し、日本のプレゼンスは高まっています。英文誌も年2冊体制になり、英語での発信が飛躍的に増加し、国際化は現実のものとなっています。

 私自身は、学会でこれらの国際化関連の職務を担うことにより、世界中の人類学者とつながることができたことを、個人的に大変うれしく、ありがたいことだと思っています。そして、そのような血の通った国際化を、会員のみなさんが今後ますます推進していってほしいと心から願っていますし、学会として積極的に応援したいと思います。

 さて、この第29期は、世界的な新型コロナウィルス(COVID-19)の大流行のもとでの開始となり、今回の研究大会も総会もオンライン開催、という異例づくめの出発となりました。大学でもオンラインでの講義や会議と、これまでとは異なる生活様式を採用せざるを得ない日常が続いているさなかです。学会で迅速に行われたアンケート調査からは、経済的に困窮する若手や非常勤の方たちの問題などが現れ、会費減免措置の決定が本理事会の最初の仕事の一つとなりました。そして、文化人類学にとって根本的に重要なフィールドワークが困難になるという非常事態に私たちは直面しています。

 個人的なことですが、実は私は昨年、長年お世話になってきているオーストラリアのフィールドの、アボリジニの母を亡くしました。アボリジニの家族は、オンラインで臨終に立ち会わせてくれ、葬儀も私の予定に合わせてくれ、私を家族として受け入れ、この長い時間の間に多くのことを学ばせてくれた母に、直接お別れすることが出来ました。そこから日本に戻った後のタイミングでコロナ禍が顕在化したことは、一つの時代の終わりを象徴することのようにも思えました。母が可能にしてくれたフィールドでの時間が、私とは異なる生活世界が、日常がそこにある、ということの確かな実感を私に与え、間違いなく私の人生を変えました。そのようなフィールドワークによって得られる厚い経験とその魅力を、これから文化人類学を学ぼうとする人々にどのようにすれば伝えられるのか。我々一人一人が、そして学会としてもとりくまなくてはならない、大きく困難な問いだと思っております。

 第54回研究大会のオンライン開催の成功、世界的に行われるようになったウェブ・セミナー webiner の展開など、明るい要素も見えてきていると思います。オンラインによる活発な意見交換などの、新しいコミュニケーションのあり方の可能性も探っていきたいと考えております。今期の理事会と評議員会のフレッシュな力を中心に、そこから個々の会員とつながりを広げることで、様々な課題に向かっていけると信じています。

 会員皆さまのご支援を得て、なんとかこの困難な2年間を務めたいと思います。どうぞよろしくお願いいたします。

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