会長あいさつ
更新:2010年6月17日



2010年6月13日

日本文化人類学会会長(第24期) 渡邊 欣雄

<会長就任にあたって>

中部大学の渡邊です。愛知県からの会長か出たのは、じつに本学会初の事件だろうと思います。会員のみなさんの何人かはうわさを知って、「渡邊先生、会長就任、おめでとうございます」と声をかけて下さるのですが、わたしにとって会長就任は、決して<お祝いごと>ではありません。できるならわたしの任期中は「渡邊先生、会長就任、ご苦労さまです」と声をかけてほしいと思っています。こうしてわたしは、本学会の重要な歴史の一コマの重責を担うことになりました。その理事会は、今年度で24期を迎えるまでになりました。すなわち本学会は学会組織になってから、47年目を迎えることになったわけです。

わたくしは41年前の昭和44年に本学会に入会しましたから、ほぼ本学会とともに歩んできたことになります。わたしが入会した当時は会員数853名、理事は15名でした。評議員になりましたのは33歳の時から、理事になりましたのは41歳の時からであり、これまで9回も役員を経験してきました。自分の半生を使い、この学会に運営上の貢献も、してきたことになるかと思います。

現在の会員数は1951名、理事も22名に増えております。先輩たちのご努力により、本学会の知名度や社会に対する影響力は、40年前に比べて格段に大きくなっております。

さて今期理事会を組織するにあたりまして、わたしがどのような方針を持って臨んでいるのか、簡単に述べておきたいと思います。

21〜22期理事会から、本学会内に特定の研究テーマを設けた研究グループを作ることが検討されてきました。例えば「開発」「医療」「映像」などの研究テーマを、学会共有の研究課題とすることにより、会員相互の研究連携や交流を可能にするような「研究グループ」制の導入です。それによって社会や学問界における文化人類学の対外的なプレゼンスを高め、本学会の研究活動を活性化しようという計画でした。これを受けて23期理事会はこれまで慎重に検討してきましたが、さらに実施するかどうかの検討は、今期24期理事会に引き継がれることになりました。今期理事会でぜひ検討したいと思っています。

また23期理事会から「研究大会」における「査読制」が導入されました。京都大学で行われた第42回研究大会では350名もの発表がありました。これほどの数の発表が今後も続けば、研究大会を引き受けてくれる機関がなくなり、研究大会が開けなくなるだろうとの危惧から、大会運営をどうするかに関して検討が始まりました。その結果採択されたのが、このたびの「査読制」でした。査読制導入のきっかけは、このように研究発表者の数が研究大会の運営能力を上回ることを抑制するためでした。しかし現在実施している「査読制」は、研究発表の質を高め、科研費や特別研究員等の申請に際しても「査読あり」という、レベルの高い学会公認の研究発表であることを示すための制度になっています。それによって本学会の社会的なプレゼンスを高め、研究大会校にも負担をかけない制度として、今期から実施されています。今後もこのような査読制は、維持していきたいと思っています。

その他大きな課題としては、倫理綱領が完成しホームページ上で公開されていますが、なお英文版を今期作る予定だと言うこと、ほか学会歴史委員会や民博連携委員会の新たな作業が始まっていること、本学会の国際連携事業が日本学術会議を通じて行われる可能性のあることなどです。

さて以上に加えまして、今期から新しく行いたい事業があります。

いま日本では、「ポスドク問題」が、深刻な社会問題として浮上しています。それは課程博士を終えて博士号を取得した者が、定職につけないまま「非正規雇用」ないしは「ワーキングプア」の状態で生活せざるを得ない状況に置かれている問題をいいます。ある書物によれば大学教員は現在12万人いて、毎年平均3000人から4000人の教員が退職しているという計算になるが、課程博士号を取得した者は、毎年15000人から16000人、最近のニュースでは18000人を超えているとされ、年々数百人の割合で増え続けているというのです。このまま「ポスドク問題」にわれわれが無関心であるなら、将来の学会の担い手たるべき後継者がなかなか定職に就けないことから来る、格差社会ならぬ「格差学会」になってしまうだろうし、少なからぬ若手会員が研究活動を持続できないまま、研究を断念せざるを得なくなるのではないかと危惧しているのであります。

「ポスドク問題」をどう解決するかは、それはときの政府の政治課題であって、われわれのような学会そのものが、解決できるような問題ではありません。われわれ学会は会員の研究活動の場を提供し、会員の研究活動を支援し促進することを主目的にした任意団体です。したがってまずはこうした会員の窮状を把握し、会員のどのような状況に対して学会として何ができるのか、早急に判断せねばならない時期に来ていると考えているところです。

そのため「教育特別委員会」のなかに、「若手研究者支援事業の検討」という新たな課題を設定し、若手研究者が定職に就ける条件を整えるための研究活動や、研究業績を増やす機会を与えたいと考えています。たとえば若手中心の小規模研究大会を開催するとか、若手のための電子ジャーナルを作るとか、あるいは民博との連携事業として、若手支援を積極的に行うことなどなどが考えられます。

そのための事業費として、「将来計画基金」のなかの「波平基金」を活用させていただきたいと思います。「波平基金」は若手研究者の活動支援のために、波平恵美子先生がご寄付を下さった基金だからです。

わたしはほぼ40年ぶりに登場した高齢会長ですが、年齢にしてはあまりにも非力であります。今年から理事、評議員のご意見・ご協力の下に、すでにお伝えしたようなさまざまな課題に取り組んで行く所存です。会員のみなさんには、本学会への変わらぬ暖かいご支援とご協力を御願いして、新会長のあいさつといたします。ご静聴ありがとうございました。

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