更新:2006年6月7日 |
2006年6月4日 日本文化人類学会会長(第22期) 須藤 健一 <会長就任にあたって>
日本文化人類学会の会長に選ばれました須藤です。会長として一言ご挨拶申し上げたいと思います。
本学会が日本民族学会から「日本文化人類学会」へ名称を変更して3年目になります。改称にあたられた大塚和夫前々会長、新名称のもとで学会を運営してこられた加藤泰建前会長、そして理事の方々のご努力に感謝いたします。
この間に、学会の「知の源」であります機関誌『文化人類学(旧民族学研究)』とJRCA(Japanese Review of Cultural Anthropology)は質量ともに充実し、このあとで授賞式がありますが「学会賞」を新設して学会の研究活動の活性化を図り、さらに国際的には人類学世界協議会(WCAA:World Council of Anthropological Associations)の代表幹事に本学会の国際連携委員会前委員長小泉潤二さんが選ばれて日本文化人類学会のプレゼンスを高めるなど、戦略的に多くの事業を行い、内容のある学会活動を展開してこられました。そして、多くの新会員を迎え入れ、本学会は大きく躍進してきたといえます。
しかし、このような学会の発展に反して、文化人類学の名前を知っている学生や文化人類学を学ぼうとする学生が少なくなってきていることも事実です。さらに、文化人類学に対する批判的な声を今でも耳にします。「人類学はミクロ世界しか相手にしない」、「現代の課題に対応できない過去の学問である」、さらには「インボルーションを繰り返すだけでインパクトがない」とかです。とくに、多くの隣接分野の研究者から、私が最近出席した研究賞や奨学金の選考委員会や人事委員会などの場でそのような意見が出て、文化人類学の若手研究者の研究業績を過小評価しようというあからさまな態度が見えてきます。
文化人類学が直面しているそれらの問題に対して学会員が不利益をこうむることがないようにするためにはどのように対処していくか、実に多くの課題があります。私は目下、次の4点を考えています。
このほかにも、学会として取り組まなければならない課題はあります。
私が学会員として考えていることは、 文化人類学の学問の基本は、研究のテーマや対象が何であれ、フィールドワークに基づいて多面的で多様な情報を収集、分析、解釈して、「自分の言葉」で論文やモノグラフ、ないしエスノグラフィーを記述することです。この手法が文化人類学の核心だということです。近年、本学会員が研究成果をモノグラフや民族誌の形で出版される数はとみに増えています。まことに、文化人類学の学問的発展にとって追い風になっていると思います。
一方、国家レベルの学術答申や科学基本計画等には、「社会的ニーズにこたえる研究」とか「政策課題対応型研究開発の推進」がうたわれ、それらに対応できる研究には膨大な研究資金が用意されています。文化人類学の研究は、問題解決型ないしは実学的な研究を目指してきておりません。けれども、「開発」、「観光」、「医療」などの研究分野では文化人類学の研究成果が重視され、社会に還元することにより、人類社会に貢献できる面もあります。その辺は、文化人類学の核心を外すことなく、いろいろな分野において応用部門として、積極的に貢献なされることも必要かと思います。
最後に、現在人文・社会系の研究・教育の状況は逆風にさらされていますが、会員の皆様は、文化人類学の方法と理論に依拠し、「自分の文化人類学」に自信を持って、個性的な研究を深化・展開させてください。本学会は皆様のご研究と教育などの活動の支援組織であります。日本文化人類学会のいっそうの発展のために、皆様のご理解とご協力を心からお願い申し上げます。
どうもありがとうございました。
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