会長就任挨拶
更新:1998年8月2日



第18期会長 松園 万亀雄
日本民族学会第32回大会
1998年5月24日西南学院大学にて

 ただいま、山下晋司会長から次期会長としてご推薦いただいた松園万亀雄です。

 私は大林太良会長(1982−3年)と原ひろ子会長(1990−1年)のとき、この学会の庶務理事をつとめました。
 大林会長のときは、会費の倍額値上げ、研究大会の隔年開催が決まり、また学会発足50周年に向けての記念事業準備委員会がつくられました。
 原ひろ子会長のときは、研究倫理委員会関連のアンケート調査をおこないました。また1991年、文部省から大学設置基準の「大綱化」が打ち出され、教養部の解体・再編成の問題が出てきて、一般教育科目としての文化人類学の存続が懸念されていたころでもあり、この問題についても会員のアンケート調査をおこないました。
 大林会長、原会長、いずれのときもとても忙しい理事会でした。しかも、そのころは理事会のなかには現在の渉外担当の理事はおいておらず、これも庶務の仕事でした。会計担当その他の理事の方に応援していただきましたが、それでも庶務理事の仕事は大変でした。原会長のときの庶務理事の任期を終えてると、自分用のファイル資料は次期理事会からの問い合わせを考えて1年間は保存していましたが、その後すべての資料を放り棄ててしまいました。そのときの晴々とした気分は今も忘れません。
 ようするに庶務理事を2期つとめたことで、私としては一個の会員としては学会には応分の貢献をしたという気持ちになっていました。その後は学会とはつかず離れず、評議員、理事に選出されることがないように、自分なりに細心の注意を払ってきたつもりです。

 それが、このたび、暗闇からいきなり表に引き出されたような感じで、会長に推薦されてしまいました。内心、葛藤があったことは事実ですが、評議員による投票で決まった以上は、いさぎよく会長職を引受け、最善をつくさざるを得ないと観念しております。

 かぎられた時間の中で、この機会を借りて、私は学会の理事会がいまどんな状況におかれているかをお話しして、みなさまのご理解を得たいと考えます。

 現在の会員数は約1800人です。最近はとくに若い人たちの入会が増えております。会員の年齢分布が随分と変わってきました。ちなみに96年には、40歳代以下の会員数がしめる割合は全体の67パーセントでした。今年は、まだ調べていませんが、7割に手はとどくところに来ているのでしょう。しかし学会誌への投稿や研究大会での発表などは昔も今も若手の研究者や院生が中心になっておりますし、そのこと自体は、とてもよいことだと私は考えています。
 その一方では、かつて学会の運営や研究活動で中心的な活躍をしてくれていた私たちの先輩、年齢でいうと60代、70代以上の先輩たちが、とくに近年、研究大会にあまり姿を見せてくれなくなったという印象を私は強くもっております。研究大会の場がかつて果していた、研究仲間との久しぶりの出会いを楽しむサロンとしての機能が、少なくとも高齢の会員にとっては無くなってきているのではないかと危惧するのです。それにはたぶん複合的な要因があるのだろうと思います。なんとか改善の道はないものだろうかと思案しております。この点については、諸先輩の助言を是非たまわりたいと考えます。

 学会をとりまく環境もずいぶんと変わってきました。会員の研究テーマが拡大し多様化してきたというだけでなく、フィールドワークの実際のやりかたや方法論までもが一昔前に比べて大きく様変わりをしてきました。
 情報化、グローバル化といった状況に適応するかたちで、日本民族学会の理事会が背負う仕事の量も増え、その中身も多様になってきました。とくに前期の山下会長、前々期の青木会長の理事会には、そのことがいえると思います。
 こうした状況に円滑に対応できるように、今期の理事会では、前期から引きついだ沢山の仕事をやりながら、それ以外に評議員会、理事会、会長の役割の再定義化や役職者の選出方法など、学会組織に関する問題点を検討して、必要な会則の変更を提案したいと考えております。
 また、会員が増加したこと、人類学会との連合大会が無くなったこと、主としてこの二つの要因のために研究大会での発表件数がうなぎ上りに増えてきていています。一般発表、分科会、シンポジウムなど、それぞれ質の向上を図りながら、円滑な大会運営をすすめるにはどうしたらよいか、この点も今期理事会が検討しなければならない大きな仕事だと考えます。
 前期理事会が作った特別委員会でも、いまふれた二点、つまり学会組織と研究大会の運営方法の改善に関して検討がなされてきました。今期理事会では、会員の意見を反映させながらさらに議論を重ね、できるだけ早い時期に成案を得て、いよいよ実現にとりかかることになります。そのために二つの特別作業委員会を設置しました。
 また、民族学会の歴史を将来編纂出版すべく、資料を収集するための委員会も、今期から発足させることにしました。
 そのほか、2002年に日本での開催が予想される国際人類・民族科学連合(ユニオン)の中間会議に向けて、日本人類学会と合同の準備委員会を立ち上げる仕事もあります。いま申しあげた以外にも理事には通常の、『民族学研究』編集、英文雑誌の編集、広報・情報化、各地区研究懇談会の運営、それにもちろん庶務、渉外、会計等の仕事があります。理事会の仕事は、ため息が出るくらい目の前に山積しております。

 そこでこうした問題に対処するために、理事会や常設の委員会、特別作業委員会では、活発な議論をしてもらわなければなりません。そのための一助として、遠方から来る理事や委員に対しては従来は交通費の半額だけしか学会から出していなかったのを、今期は交通費の7割5分を、学会負担とすることにさせていただきました。もちろん宿泊費はゼロですし、理事会が開催される地区の理事には交通費をふくめて一切の手当てが支出されないことは従来どおりです。
 のちほど、会計担当理事からその説明もあるはずですが、以上のようなわけですので、皆様のご諒解をたまわりたいと存じます。
 私は学会執行部としての、20名からなる理事会はすでにパンク状態にあると考えています。そうしたこともあって、学会組織の問題を今期理事会で検討することは時宜を得ていることだと考えます。学会として対応が遅すぎたために、理事個人個人が過大な仕事を背負わされ、あまりにも大きな犠牲を払わされていると認識しております。学会のためだから、ある程度の個人的な犠牲は当然だというご意見もあるでしょうが、もうそんなレベルの話ではなくなっているようです。

 一言でいえば、今期の理事会はどちらかといえば、学会全体の組織と研究大会の運営について再検討することを重点課題として、足元を固める仕事をやりたいと考えています。最大多数の会員がひとしく利益をえるような学会運営はどうあるべきか。そのことを念頭において、みなさまの意見を十分に聞きながら、慎重かつ迅速に仕事をすすめたいと思います。

 会員みなさまの、熱いご支援をおねがいして、挨拶といたします。