会員から寄せられた被災情報とご意見

東北関東大震災に関して会員から寄せられた被災情報とご意見のうち、公開することについてご了解がえられたものをここに掲載いたします。なお、個人情報等については、一部割愛させて頂きました。


発信:高倉浩樹会員
日付:2011年5月19日

東北地区研究懇談会担当理事である高倉浩樹会員より、東北関東大震災に関連して開催された「東北地区研究懇談会 2011年度第1回例会」の報告がありましたので、ここに掲載致します。

日本文化人類学会東北地区研究懇談会 2011年度第一回例会報告

3.11大震災に関わる集い
被災者としての経験、研究者としての経験を共有する

日時 2011/5/15 午後2時から6時
場所 東北学院大学土樋キャンパス8号館第二会議室
参加者 53名(名簿)+α
共催 東北人類学談話会

文責:高倉浩樹

 番組は、(1)趣旨説明、(2)震災後どのようにすごしたのか、学会員の被災経験を聞く、(3)学生たちの被災と活動、(4)各大学の対応、(5)研究者として今後どのように対応するかについての意見交換という形で行われた。司会は津上誠(東北学院大)と高倉浩樹(東北大)。以下は、高倉の個人的感想を含む報告である。

 (1)はすでに広報で出されていた趣旨説明に即して話がされた(文末参考)。(2)は学会員の被災体験を聞くと言うことで、何らかの形で被災した学会員が、自分の経験や感じたこと、自宅や研究室の状況について4-5分程度で話をしていった。地震時に仙台にいなかった者も多く、どのように家族や同僚と連絡を取り合い、復旧・復興のプロセスを歩んだのかについて多様な経験が提示された。(3)学生たちの被災については、事前に教員が依頼していたこともあり、多くはボランティア体験についてパワポを交えての話となった。被災後どのような心境のなかでボランティアに関わるのか、あるいは自分は被災者なのか、自分の生活空間は被災地なのか自問する姿は共感できた。また被災からどのようにすごしてきたのかを記録として提示した学生もいた。このような場合、一般論ではなく具体的な日常がでればでるほど興味深いことを実感した。

 休憩を挟んで、(4)各大学の対応についての報告があった。これは公式の報告ではなく、教員がどのように対応したのかについての個人的な経験である。東北学院大ではボランティアセンターが立ち上がり、学生のボランティアに対しては教員が車で送迎するなどの対応がおこなわれたという。またボランティアセンターの活動継続を学内外から支持させるために、スタジャンを作りこれを着て活動するといった大学広報的な行動も早くから始められたという。宮城学院女子大学の場合、震災当日学内に300人ほど学生がおり、帰宅困難者となったため、彼らを学内の体育館後には合宿所で宿泊・炊き出しが行われたことが報告された。また教員も相談などのため交替で大学に泊まり込み、また安否確認を行ったことが報告された。東北大文学部文化人類学研究室では、震災で研究室の書棚に破損が生じてから、復旧するまでの文学部事務からの対策連絡とその対応が時間をおって報告された。東北大東北アジア研は、塔屋が大きく破損したため建物そのものに入れない事態が起きており、現在教員はキャンパス内でばらばらの状態で仮部屋に配置されていることが報告された。このほか、(2)において白百合女子大学の状態も報告されたが、帰宅困難となった学生を宿泊させるという処置をとった。総じて見ると私立大学は規模を問わず内部での情報交換が比較的高密度に行われ、対策決定にいたるまでの情報交換が大学全体で行われていること、また学生の宿泊支援やボランティア支援が明確に行われている様である。これに対し国立大は部局毎の対応が基本で、全体としての動きが教員にみえてきにくい体制になっているという印象を持った。

 (5)最後の意見交換は、これまでの話や報告に対する質疑応答、東北以外での被災経験や被災支援の話をすることで始まった。ついで人類学者としてどのようにこの震災に対応していくのか?調査をするのか?といったことが議題になった。東京からの会員が、自分を含めて全国の多くの学会員は被災のボランティアや調査をしたいと思っている。とはいえどうやって被災地に入っていいかわからない。東北特に仙台の学会員がそのハブになることはできないだろうかという問題提起があった。これについては批判も含めて大きな議論となった。

 ある会員は、今回の震災においてわざわざ被災地にくることは迷惑であり、震災の規模がおおきいだけそれぞれの場所でも被災の経験をしているはずであり、それを調査すべきだと意見がでた。これに対し、被災の現場性というのもは、あきらかに存在し、それを無視することはできないこと。やはり宮城や福島・岩手の太平洋沿岸の被災地を「現場」として考えるべきと言う意見もでた。調査公害や倫理を考える必要もあるが、研究者としてこの現場で何かをしたいということを基軸に考えていくべきではと言う議論になった。ある研究者はこれまで調査してきた村そのものが無くなっている。その意味では語りによる民族誌を記録することで、村に対して貢献することが可能だと主張した。さらに参加していた土木工学の専門家からは、すぐに訳立つとはわからないがいずれにしても記録していくことは後に重要な資料になる。たとえば震災時にどこで水を手に入れたかと言ったことは聞き取りでないととれないし、これに地理情報をいれれば土木工学的には重要な資料となる。またすでにインターネットで膨大な映像があるわけで、それらを含めて事前に調べた上でなら、やはり現場にどんどん入っていくべきではというエールもあった。全体の議論としては、いずれにしても被災の経験を記録していくことの重要性はあるのではないか、それは純粋に学問のためというよりは応用人類学である。おそらくそれは人類学あるいは民俗学、さらに地域社会学など質的なフィールドワークをする分野ができる貢献があるのではないかという議論になった。またこうした集まりを継続しておこなっていく必要性もあるのではないかという指摘もあった。

 会場はほぼ満員で、遠くは長崎、愛知、静岡や東京からも参加があり、東北地区からは仙台を中心に岩手や山形からの参加者があった。このことから東北地区だけでなく全国の会員の関心を集めたものであったことが伺える。

趣旨説明
2011年3月11日に発生した東北地方太平洋沖地震は未曾有の大震災を引き起こしました。大津波と度重なる余震、ライフラインの途絶、さらに原発事故の長期化という過程を東北地方で生活/研究する日本文化人類学会の会員もさまざまな形で経験してきたと思います。この集いでは、大学教員・学生・留学生などさまざまな立場にある学会員がどのような経験をしたのか、それぞれ語り合うことで共有したいと考えています。大震災はそれを引き起こした大地震だけでなく、これにつづく様々な出来事が長期間にわたって我々自身に影響を与え続けています。被災直後とその対応、現在につづくまでの状況、これからの教育/研究の見通しなどをそれぞれの立場から話すことで、我々自身の体験がどのようなものであったのか、確認しあいたいと思います。また地域の復興/復旧にどのように関わることができるのかなどについても意見を交換できればと考えています。地区研究懇談会は、研究促進の場であると同時に、地理的に近い会員同士の親睦と交流を促進することを目的としています。「被災者である自分、人類学に関わる研究者である自分」をみつめる機会、そしてそこから広がる交流の場をつくっていきたいと考えています。まだ番組は明確に定まってはいませんが、東北地区の各大学の対応、学生や留学生の立場での経験を話してもらうことで相互の談話のきっかけをつくるつもりです。是非、ご参集いただければと思います。学会員にかかわらず文化人類学関連分野に関わる人の参加をお待ちしております。


発信:水谷裕佳会員
日付:2011年5月6日

震災直後から、医師である友人がソーシャルネットサービス(SNS)の1つであるmixi(ミクシィ)に開設した、被災者向けのオンライン医療相談サイト(「東北地震・医師による健康相談室」 http://mixi.jp/view_community.pl?id=5523361, facebook, twitterでも情報発信中)運営のお手伝いをしております。

活動を通じて考えた、日本文化人類学会が震災復興に役立てる方法を、以下に提案します。

(1) 医療、災害分野の文化人類学の論文、図書をオンライン上で一定期間無料で公開する。

社会学では既に同様の試みがなされています。(東日本大震災救援・避難・復興支援に携わる皆様へ 関連書籍無料公開中 http://www.kyoto-gakujutsu.co.jp/showado/shinsai/

(2) 地域の活性化やコミュニティ形成に関する論文、図書を同様に無料で公開する。

例えば私が参加している団体の支援者の多くは医師であり、怪我や病気には対応できます。しかし、被災地から多く寄せられている「本当に地域が復興できるのか分からず不安」「仮設住宅で近所とのネットワークが作りにくい」といった意見は、むしろ文化人類学者の方が対処しやすい問題だと思われます。世界各国で行われている災害復興や人的ネットワークの構築の事例を被災者に示すことは、大きな心の支えとなり得るのではないでしょうか。

(3) 被災地内外の状況の記録

今回の震災では、地震や津波、原発の問題の他に、首都圏での「買占め」に代表されるように、日本全体で人々がいつもとは異なる行動を取りました。そのような体験を、文化人類学者として個人レベルでいわばライフヒストリー的に記述し、文字記録として後世に残すことはできないでしょうか。

(4) その他

文化人類学者の多くの強みとして、外国語運用能力が挙げられると思います。私も、当初、活動には翻訳担当として参加しました。しかし、ネットへの接続環境があるということは、外国からの方は母国の医師や専門家に直接相談できるということであり、現場ではニーズがありませんでした。

私は米国先住民研究を行う身であり、医療や災害のトピックには疎いですが、何かのお役に立ちましたら幸いです。


発信:林勲男会員
日付:2011年4月17日

学会のウェブサイトにて、東日本大震災の被災会員からの現況報告を呼びかけていますが、これでは、東北沿岸部で被災し、行政機能もマヒしてしまった市町村から被害状況の情報が上がってくるのを待ち続けていた国や各県と同じではないでしょうか。情報を待つのではなく、行って集めてくるのが人類学の基本のはずです。

たとえば、研究連絡上のメーリングリストに流れた情報を集約したり、比較的被害が軽微であったと思われる東北地方西部の会員とまずは連絡を取り、東部の研究者に関する情報収集をするなど、そのための手段と体制を検討してみてはいかがでしょうか。また、そうして集めた情報をウェブ上で公開することによって学会員での共有を図るのも大事かもしれませんが、被災会員への支援対策を理事会等で検討し、早急に実施すべきものは実施することのほうが今は必要なのではないでしょうか。

また被災地の会員には、学生や地域社会への対応などについても、研究者として教育者としての期待と責任がかかってくることと思います。被災地のいくつかの大学の研究者(人類学者)には、阪神・淡路大震災時の関西学院大学の対応に関する報告書を3月下旬に紹介してあります。こうした必要であろう情報の提供は、今後の被災地の復旧・復興状況を見ながら被災地外から積極的におこなっていくべきだと考えています。


発信: 川添裕子会員
日付: 2011年3月25日

原発事故について、日本文化人類学会から社会に発信することを提案します。

【提案の背景】地震以降テレビは、技術的解説と過酷な状況に耐える被災者とそれを支える人たちの様子を連日放映している。新聞も大きな違いはない。目前の出来事にどう対処するのかということが最重要ではあることは間違いない。しかしながら昨今のテレビ新聞の批判力の低下、スポンサーへの配慮などから、このままエネルギー行政のあり方自体には触れない可能性も考えられる。そうなれば東海村、柏崎、浜岡とこれまでの事故同様、根本的な問題は全く解決されない。

【人類学の担う役割】一般の人々の反応は、政府、東電の発表に不安を感じつつも、週刊誌の記事にも大げさだという印象をもち、さらには反原発と声高に言って政治運動にかかわるのも嫌だといった感情を抱く人が多いように思う。したがって多くの関心は、被災者、現場で作業する人たちをどう支援できるのか、自らの身をどう守るかということが中心になる。しかし目前の出来事への対処と同時に、東電の責任、原子力行政の責任、そしてそれを基盤として築いてきた経済体制、日々の生活自体を根本から再検討する必要がある。広瀬隆氏をはじめ、公共性の高い事業を民間に任せてきたこと、天下りと癒着構造などは以前から指摘されてきた。人類学は「原子力村」、消費社会、格差、科学的思考、教育体制、産業全体など複数の文脈から問題に迫ることができると考える。

【発信媒体】ネットが普及したとはいえ、現状で最も影響力があるのはテレビと新聞である。原発をめぐる問題を、人類学的(または人文社会科学的、あるいはまた批判的)視点から論じる番組(たとえばNHKスペシャル)をテレビで放映できないだろうか。新聞に論説を掲載することや、費用的に難しいかもしれないが一面広告を出すことも有効だと考える。独自に撮影したものをYoutubeへアップすることも考えられる。産業界の動きは早い。原発事故に際して、これから私たち人間が考えなければならないこと、まず発信して、今後の方向性を示してほしいと願う。

参考資料
● 大前研一「地震発生から1週間 福島原発事故の現状と今後」
http://www.youtube.com/watch?v=8GqwgVy9iN0
(書きおこし)
http://www.kakiokosi.com/2011/03/
● 「隠された被爆労働 日本の原発労働者」1995年チャンネル4
http://www.youtube.com/watch?v=92fP58sMYus
http://www.youtube.com/watch?v=pJeiwVtRaQ8
http://www.youtube.com/watch?v=mgLUTKxItt4
● 広瀬隆「地震と原発」原発Nチャンネル
http://www.youtube.com/watch?v=kiOBaPlb5t8
http://www.youtube.com/watch?v=7RDWpKy7G8E
●「東京電力の『大罪』」、『週刊文春』3月31日号


発信: 沼崎一郎会員
日付: 2011年3月24日

東北大学大学院文学研究科・文学部の文化人類学研究室の状況について、簡単に御報告いたします。

当研究室では、幸い所属教員学生とも全員無事を確認いたしました。

研究室のある文学研究科棟も、建物自体の被害は少なく、現在も使用可能です。研究室も、一部の棚や機器が損壊し、書籍等が落下して散乱しましたが、壁が崩れることもなく、電気・水道およびLAN環境も復活しております。ただし、ガスヒートポンプシステムのため、暖房装置は使用不能で、例年にない寒さが続く中、部屋も廊下も冷え切っております。仙台市でガスが復旧するには、なおしばらく時間がかかる模様です。

学生は自宅待機中であり、多くの学生が仙台を離れて実家に戻っております。実家が被災した学生もおりますが、早くもボランティアとして援助活動に参加している者もいます。

地震と津波の被災地はもちろんですが、交通が寸断され、物流が滞っているために、東北全体で物資不足・食糧不足が続いております。

東北大学は、卒業式・入学式とも中止を決定、現在4月25日の授業開始を予定しております。

皆さまから寄せられたお見舞いとご支援に深く感謝申し上げます。今後とも、どうぞ宜しくお願い申し上げます。