日本民族学会理事会文書8−1号
平成8年10月15日
内閣官房長官
梶山 静六 殿

ウタリ対策のあり方に関する有識者懇談会報告書についての見解

日本民族学会会長
山下晋司


 本年4月、ウタリ対策のあり方に関する有識者懇談会による報告書が内閣官房長官に提出されました。この報告書について、日本民族学会理事会の議を経て、以下の見解を表明します。
  1. 日本におけるアイヌ民族の地位の向上と生活の改善に向けてこのような報告書が出されたことを、世界の民族と文化を研究する者として、私たちはおおいに評価する。
  2. アイヌ民族についてすでに私たちは1989年に日本民族学会研究倫理委員会の名において意見を表明している。この意見は今回の報告書においてはとりわけアイヌの人々の民族性や文化の特色に関する記述において生かされていると考える。
  3. 従来の日本政府の施策の反省をふまえて、アイヌ民族とその文化に関する新しい施策として、報告書は、(1)アイヌに関する総合的かつ実践的な研究の推進、(2)アイヌ語をも含むアイヌ文化の振興、(3)伝統的生活空間の再生、(4)理解の促進、の4つの柱を立てて提言を行っている。私たちはこの提言にみられる考え方を基本的に支持し、アイヌの人々との新たなパートナーシップを希求しつつ、アイヌの民族文化の研究を志すものである。
  4. この報告書を受けて、政府は明治32年に制定された「北海道旧土人保護法」及び昭和9年に制定された「旭川市旧土人保護地処分法」を廃止し、今日の日本ならびに世界の実状に即したアイヌ民族に関する新たな立法措置を一刻も早く講じ、アイヌ民族の地位の向上と生活の改善をはかるよう、私たちは要望する。
  5. 報告書のなかでも触れられているが、1993年の国際先住民年以来、国際社会においては先住民をめぐって議論や行動が活発化している。こうした世界的状況のなかで、日本政府の決定がこの問題を理解し、解決することに向けて大きく貢献することを期待する。
  6. この報告書が提起しているさまざまな問題について、本学会においては今後もさらに検討し、議論を深めていく。