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• 1998年度第4回（修士論文発表会） 1999年3月19日（於：慶應義塾大学三田校舎）
  

  10:30	門伝仁志	慶應大	見世物と現代社会
  10:50	岩田晋典	立教大	混血と民族の一考察：スリナム社会の事例から
  11:10	玉山あかね	早稲田大	沖縄の綱引きに見るバイオレンスの変容
  11:30	清水拓野	東京大	オルターナティブ教育をめぐる葛藤と協調：ある日本のフリー スクールの事例研究
  12:00	山田重周	東京外国語大	名前を呼ぶ者と呼ばれる者−西アフリカのグリオとグリオに 名前を呼ばれる者との関係
  12:20	吉田明子	一橋大	タンザニアのマコンデ彫刻・ティンガティンガ画の生産と受容： 商品化する精神世界
  12:40	中村若生	お茶の水女子大	歴史をめぐる記憶―スミソニアン論争（1994−95）を中心に
  13:00	砂川秀樹	東京大	セクシュアリティの再定義へ向けて
  13:30	間宮郁子	千葉大	芝居と医療情報コミュニケーション−新潟県北魚沼郡守門村 のがん検診
  13:50	丹羽典生	東京都立大	イギリス間接統治下フィジーにおける首長層の官僚化と宗教 的社会運動の生成−1874〜1930
  14:10	川村智子	筑波大	インドネシアにおける「国民文化」の生成に関する一考察：バ ティックにみる文化の操作とその背景
  14:30	村田敦郎	早稲田大	チャンディ・ブンダル考
  15:00	大川真由子	東京都立大	オマーンの「近代化」における女性の地位：男女隔離の分析 を中心に
  15:20	石丸奈加子	東京大	「市民」の領域：援助と自立をめぐるNGOsの課題と今後
  15:40	新田康則	神奈川大	地域としての秋山郷
  16:00	関根光宏	立教大	インド、西ベンガル州のクモル（土器づくりジャーティ）：南チョッ ビシュ・ポルゴナ県、ブルボ・ゴパルノゴル村の事例から
  16:30	小倉健一	早稲田大	利根川中流域の水神信仰と人柱伝承
  16:50	大村香苗	お茶の水女子大	国家編成時メキシコにおけるArte Popular
  17:10	日野千草	千葉大	モンゴル遊牧地域における宿営地集団：モンゴル国中央県ブ レン郡における事例から
  17:30	織田竜也	慶應大	祭りの経済人類学的考察：諏訪大社上社御柱祭の事例から

  
  

1. 　門傳　仁志（慶應義塾大学大学院社会学研究科）
   
   「見世物と現代社会」
   身近な娯楽として古くから親しまれてきた見世物小屋について発表した。はじめに先行研究を紹
   介し、学説史的な位置付けを示したあと、実際に見聞したいくつかの見世物芸について述べた。
   見世物小屋の演芸には我々の身体感に直接訴え掛ける種類のものが数多くある。例えば足芸は
   通常手がになうべき作業を足で遂行してみせることで、見る者の身体観を異化する見世物である。
   発表では形式的に以上のように説明される足芸を、実際の上演の場面に即して検討した。最後に
   足芸を含む見世物芸には、観客の視線をはじめとする上演時の社会状況が直接反映されている
   ことを強調し、今後の研究の方向を示して結んだ。
   
   
   
2. 　岩田　晋典（立教大学大学院文学研究科）
   
   「混血と民族の一考察：スリナム社会の事例から」
   現地および文献調査に基づき、スリナム社会における「混血」ならびに「民族」範疇が成立する原
   理、そして両者の関係性を探った。ある社会範疇が「民族」であるために当社会で最も支配的な
   規則はスリナム史への関与であるといえる。一方で、「混血」への同定は、祖先集合が異・ソ的であ
   る場合に成立する。逆にそれが同質的な場合は「民族」への同定が成立するが、「混血」が同質
   的な祖先集合を形成することは論理的に可能である。ただしこの場合、「クレオール」が「民族」化
   したように、「混血」は出自が辿られ得る一定の位置をスリナム史という集合的過去の中に持つ必
   要があり、両者の違いはこの点に還元することができる。
   
   
   
3. 　玉山　あかね（早稲田大学大学院人間科学研究科）
   
   「沖縄の綱引きに見るバイオレンスの変容」
   本研究は沖縄県南風原町内の綱引きを主な事例とし、フィールドワークと文献研究により綱引き
   に見るバイオレンスとその変容の要因について考察を行うものである。バイオレンスの定義につい
   ては「直接他者の身体に物理的な危害をくわえるというゴールを志向する身体的な行為のいっさ
   い」という菅原の定義を援用した。本研究では、1)門中群対抗の綱引きに見るバイオレンスには門
   中間の対抗意識が関わっていること、2)バイオレンスの排除を促がす主たる要因は、バイオレンス
   が文化焦点となり得る機能を有しているか否かという要因であり、先行研究が指摘する社会状況
   の変化はバイオレンス排除の契機にすぎない、ということ等を指摘した。
   
   
   
4. 　清水拓野（東京大学大学院総合文化研究科）
   
   「オルターナティブ教育をめぐる葛藤と協調：ある日本のフリースクールの事例研究」
   本論文は、オルターナティブ教育の実践団体であるフリースクールを例に、そこで実践されている
   非学校的な教授と学習形態の記述・分析及び、同団体と公教育の微妙な葛藤と協調の関係への
   注目を通して、これまで日本の人類学では正面から取り上げられることが少なかった文化伝達・文
   化化の制度、慣行、過程としての現代社会の学校教育を、微視次元で相対化する一つの試みで
   ある。フリースクールとは、近年の不登校児の増加と共に、我が国でも広まった民間の教育団体で
   あり、学校的学習過程に付随する様々な慣習的特徴を意識的・実験的に改造しており、学校内で
   の多様な教授・学習形態の併存の実現へ向けたモデル構築のための格好の環境を提供する。
   
   
   
5. 　山田　重周（東京外国語大学地域文化研究科）
   
   「名前を呼ぶ者と呼ばれる者−西アフリカのグリオとグリオに名前に呼ばれる者との関係」
   グリオは、「名前を呼ぶこと」をなりわいとする。修論では、グリオと彼らに名前を呼ばれる者との関
   係の在り方を、伝承・神話等のグリオに関する言語表象の検討を行うことによって考察した。グリオ
   は一般的に劣位の存在であると把握されているが、他の制度(セナンクヤ)で結ばれる二者関係と
   比較検討した結果、グリオを劣位の存在として切り取る言説は歴史的に特殊なものであり、グリオ
   と彼らに名前を呼ばれる者とは対偶関係で結ばれていると結論した。本発表においては、他者と
   このような関係にあるグリオが「名前を呼ぶこと」には、基本的構成単位である親族集団の自律性
   が高いマンデ系社会のあり方と関係があるのではないかと報告した。
   
   
   
6. 　吉田　明子（一橋大学社会学研究科）
   
   「タンザニアのマコンデ彫刻・ティンガティンガ画の生産と受容−商品化する精神世界」
   19世紀後半に人間の喜びを剥奪し疎外感で満たすというある種の呪いとしての労働観が西洋識
   者を中心に席巻しその象徴的逆転としての芸術分野を特化し発展させた。本論では上記アートに
   対し自らの産業社会や疎外的労働による生活の逆転として豊かさや集団性を意味付与する日本
   を含めた受容者側の解釈枠組みを検討し、生産時での意味付与との差異を明らかにした。そして
   さらに両者の相互交渉からエスニック名への還元が起きると同時にこれらが当該集団へ限定され
   た精神世界内を表象する商品として消費され流通していく過程を明らかにした。また都市部工房
   において表象される複数のスピリット観念の混合や変質と正統性への主張も加えて考察した。
   
   
   
7. 　中村　若生（お茶の水女子大学大学院人文科学研究科）
   
   「歴史をめぐる記憶―スミソニアン論争（1994−95）を中心に」
   
   
   
8. 　砂川　秀樹（東京大学大学院総合文化研究科）
   
   「セクシュアリティの再定義へ向けて」
   前半では，ホモセクシュアリティに関する研究を中心に，セクシュアリティ研究の流れを超領域的
   にレビューし，その中で文化人類学における研究を位置づけた。また，現在，セクシュアリティ研
   究において流行している「クィアー理論」の意義と問題点，その流れとは一線を画している文化人
   類学におけるセクシュアリティ研究の持つ可能性について論じた。後半では，自身のフィールドワ
   ークをもとに，ゲイバーが集まっている新宿二丁目における社会関係を考察し，その中から，包括
   社会においてセクシュアリティが社会関係において果たしている役割について論じるとともに，セ
   クシュアリティの定義を試論としてたてた。
   
   
   
9. 　間宮　郁子（千葉大学大学院文学研究科）
   
   「芝居と保健医療情報コミュニケーション―新潟県北魚沼郡守門村のがん検診―」
   本研究では新潟県北魚沼郡守門村を事例とし、保健婦から住民に提供される保健医療情報が
   人々にどのように受けとめられ、保健行為にどのように結びついているのか実証的に分析した。当
   村のがん検診勧奨活動の中心は、保健婦が自作自演する芝居である。芝居は住民に検診への
   興味を引き起こさせ、その重要性を説得し、また保健婦とのコミュニケーションを活性化させた。こ
   の例から保健医療情報コミュニケーションにおいて、住民の現実把握の論理に合致するような形
   の情報と、その提供時に与えられる保健行為や保健専門家への感情的な印象が、住民の保健医
   療行為の意思決定に大きく影響することが明らかとなった。
   
   
   
10. 　丹羽　典生（東京都立大学大学院社会科学研究科）
    
    「イギリス間接統治下フィジーにおける『伝統的』首長層の官僚化と宗教的社会運動（1874−1930）の生成」
    本発表では19世紀後半から20世紀のはじめにフィジーで発生した宗教的社会運動をリーダー
    シップの変化という側面から分析した。大英帝国によるフィジーの植民地化という政治的転換は、
    既存の「伝統的」首長層を間接統治体制内部の官僚的な役人として選別し組み込んでいく過程
    でもあった。その結果、フィジー社会では「伝統的」なリーダーシップの原理が変質し、さらに新た
    な官僚的機構の導入をめぐって分裂することになる。宗教的社会運動とは、以上のように多元化
    され階層的に分化したリーダーシップを占めるそれぞれの人々が相互に交渉することを通じて生
    成してきたといえるのである。
    
    
    
11. 　川村　智子（筑波大学大学院地域研究研究科）
    
    「インドネシアにおける「国民文化」の生成に関する一考察：バティックにみる文化の操作とその背景」
    この論文は染織文化バティックを例に、インドネシアにおける「国民文化」生成のメカニズムを明ら
    かにすることを目的とする。バティックは外来文化を取り込みながら展開し、かつジャワという局地
    の文化である。この「異文化性」や「地域性」を特徴としながらも言説的に「国民文化」の地位を獲
    得した要因には、伝統文化保護を目的とした文化政策があり70年代以降王宮文化としてのバテ
    ィックが活性化された。だが、王宮文化の対称に位置する商業的なバティック文化においても、70
    年代以降社会民衆的な発展が見られた。つまり「国民文化」生成には、政治的な文化の操作に加
    え、それとうまく調和した社会民衆的な動態が作用していたといえる。
    
    
    
12. 　村田　敦郎（早稲田大学大学院人間科学研究科）
    
    「チャンデイ・ブンタル考−バリ島東部における宗教施設の変容−」
    チャンディ・ブンタルは、本来ヒンドゥー教寺院を構成する門であり、高価な石と煉瓦によって製作
    されていた。だが、近年、新しくセメント製のものが製作されるようになり、観光地や一般家庭等に
    おいて多くみられるようになった。修士論文では、この現象をおもに物質文化の視座から、生産・
    流通・消費の流れを追い、近年のバリの政治的経済的状況と照らし合わせて普及のプロセスを解
    明した。さらに生産者や消費者にたいしての聞き取り調査からチャンディ・ブンタルとバリ人との関
    係性を追究し、物質表象の裏側で織りなされる価値や意味の生成を分析し、バリ人の文化的傾向
    を考察した。
    
    
    
13. 　大川　真由子（東京都立大学大学院社会科学研究科）
    
    「オマーンの「近代化」における女性の地位――男女隔離の分析を中心に」
    本論は、1970年以降のオマーンの「近代化」における女性の地位を、ローカルな慣習である男女
    隔離、とくにヴェールという視点から分析するものである。筆者は現在のオマーンにおけるヴェー
    ル着用はイスラーム復興現象なのかという問題を提示した上で、エジプトでみられたようなイスラー
    ム復興を生みだす条件（「世俗的」高等教育、植民地経験、社会的不安）がオマーンには欠如し
    ていることから、オマーンの女性がイスラーム復興と関わりをもつことは現段階ではないということを
    明らかにした。ヴェール着用を含む女性の地位は国家の方針、男女隔離などの社会的規範やジ
    ェンダー関係、植民地経験・鎖国などの歴史的経験に影響されているのである。
    
    
    
14. 　石丸 奈加子（東京大学大学院総合文化研究科）
    
    「「市民」の領域―援助と自立をめぐるNGOsの課題と今後」
    国際的に草の根レベルで開発支援活動を行う多くの非政府組織 (以下NGOs)には、より間接的
    な自立支援へと近年役割の移行が求められている。本論文では、60年代の民族学調査を経緯と
    してネパール山岳村落への支援活動を継続した「ヒマラヤ保全協会」( 本部東京 )を記述の対象
    とし、小規模な国際NGOの課題を具体的に示唆する試みとした。国際開発行政におけるNGO
    活動の趨勢を概観したのち、当団体のプロジェクト報告書と事務局でのフィールドワークに基づき、
    活動の展開を追った。以上から、当団体は参加型の重要性を指摘した点で先駆的ではあるが、
    なおその後の活動環境の劇的な変化を踏まえ、方針の再検討が必要であることを主張した。
    
    
    
15. 　新田　康則（神奈川大学歴史民俗資料学研究科）
    
    「地域としての秋山郷」
    秋山郷とは、新潟・長野県境中津川渓谷に点在する集落の総称である。この地域は、単一の行
    政単位で扱われた歴史を持たないが、住民は一体感を共有する。行政区域という現前する枠組
    みを超えて、住民に一体感を意識させ、秋山郷を地域たらしめるものは何か。この問題を通して
    「地域」を解明する糸口を把むことを目的とする。地域としての秋山郷の生成は、1.「不足を補う領
    域」としての秋山が生成し、2.秋山への外部からのまなざしと、それに対する内からのまなざしの
    呼応により、秋山が「秋山郷」へと再構築される、という過程を辿る。この過程から、「地域」が所与
    のものではなく、人間が生きることによって抱え込む自他関係の在り方に関わりつつ、絶えず再生
    産される、という結論を得た。
    
    
    
16. 　関根　光宏（立教大学大学院文学研究科地理学専攻）
    
    「インド、西ベンガル州のクモル（土器づくりジャーティ）──南チョッビシュ・ポルゴナ県、プルボ・ゴパルノゴル村の事例から」
    カースト社会における職人文化の動態と特質はいかなるものであるのかという問題意識のもと、
    インド西ベンガル州の一村落に居住し、土器づくりを「伝統的」職業とするクモル・ジャーティの社
    会組織および生業活動について、フィールドワークによって得られた資料をもとに記述した。これ
    により、これまで報告されることの少なかった、村落レベルでのクモルの社会組織に関する具体的
    データを明示することができた。今後は、村落経済ないしは村落社会総体の国家レベルでの視点
    を視野に入れつつも、特に、伝統的技術を有する職人たちの村落レベルでの具体的な動態に注
    目し、技術を介して伝えられる、人と「もの」との関係について検討していきたい。
    
    
    
17. 　小倉　健一（早稲田大学大学院人間科学研究科）
    
    「利根川中流域の水神信仰と人柱伝承」
    この論文では、埼玉県加須市の川圦神社で行われる夏越祭を事例として、ここに含まれる各要
    素の利根川中流域周辺との関連性、及びその歴史的経緯、また現在での表出状況を検討する
    。水神信仰が顕著に見られる中流域においては、地形等の影響による災害の歴史と、この神社と
    その周辺地域に残されている人柱伝承との関係が「民俗的歴史」として把捉できる。自然に対す
    る集合的記憶を維持・持続させる契機としての人柱伝承が神社の由来であることは、歴史意識と
    しての底辺のコンテクストの上に成り立つ祝祭の、独立した系譜に埋没させない現代的な視野に
    基づく読み直しが必要であり、そこに人間と「自然」との関係を読解できるのである。
    
    
    
18. 　大村　香苗（お茶の水女子大学・人文科学研究科）
    
    「国家編成時メキシコにおけるArte Popular（ポピュラ−・ア−ト）」
    メキシコにおいてArte Popularは、「貧困の文化」、あるいは、ナショナル・アイデンティティを形
    成する要素の一つとしてなど、多様なレベルで語られ表象されている。本論では、このようなArte
    Popularの多様な意味づけが生まれる文脈として、革命後のメキシコに注目し、芸術家、人類学
    者、教師、メディアの四つの主体によってArte Popularが創出されていくプロセスを分析した。
    それによりこれらの文化エリートが、文化的紐帯としてのArte Popularを創出する一方で、それ
    らの「資源化」、「商品化」を通し、先住民を国民経済に統合し、革命国家メキシコのイメージを流
    通させていくプロセスを明らかにした
    
    
    
19. 　日野　千草（千葉大学大学院文学研究科）
    
    「モンゴル遊牧地域における宿営地集団−モンゴル国中央県ブレン郡における事例から−」
    モンゴルの遊牧地域では各宿営地に通常数家族*がともに宿営する。この、同一宿営地に居住す
    る家族群を宿営地集団(ホト・アイル)という。本論文では、モンゴル国中央部における現在の宿営
    地集団の成立形態・成立過程を調査・報告することを試みた。宿営地集団の成立形態は多様で
    ある。各家族は離合集散を繰り返し１つの家族が様々な形態の宿営地集団を形成する。これは、
    労働内容の季節的変化や、各家族が置かれる状況の変化に起因する。ただし各家族は、可能な
    限り親子関係に基づく宿営地集団を形成し、それ以外の場合は、牧草および水場の状態を重視
    して移動先を選定し、相手家族の構成員には特にこだわらない宿営地集団を形成するという、大
    まかな傾向がある。（*家族＝通常、１組の夫婦とその未婚の子で構成される。）
    
    
    
20. 　織田　竜也（慶應義塾大学社会学研究科）
    
    「祭りの経済人類学的考察−諏訪大社上社御柱祭の事例から−」
    人類学は「市場経済」を扱うのが苦手である。交換論の先行研究は「伝統的交換−市場交換」
    という図式に頑なであり、「市場経済」を伝統的社会に侵入してきた「よけいなもの」として扱って
    きた。「貨幣」使用が必ずしも「市場交換」でないことからも明らかなように、諸々の交換概念を
    解体する必要がある。祭りにおける交換を観察することで交換の「規範」が祭りの時空、現代日本
    的状況、交換当事者の社会的距離や心的過程によって規定されていることを示し、「市場交換」も
    また社会に埋め込まれた様々な複合的な交換の一形態であることを論じた。今後の民族誌の可
    能性として「市場経済」を含み込んだ交換形態論の構築を目指した。